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Twitterスペースで開催された勉強会
2023年4月、われわれキャンパーが耳を疑う事故の情報が入ってきました。そう、キャンプ場での倒木による死亡事故です。利用者側にはなんの落ち度もなく、キャンプを楽しんでいたはずのお二人。お亡くなりになった故人様、ご遺族様には謹んでお悔やみ申し上げますとともに、お怪我をされました配偶者様の1日も早いご回復をお祈りいたします。
さて、その事故を受けて、私たちキャンパーは「他人事じゃない」と感じ、TVはもちろんSNSを中心に話題になりました。
でも、ただ一方的に怖がったり憶測だけで済ませるのではなく、しっかりと学んだ上で正しく怖がることが重要ではないでしょうか?
そこで開催されたのが、TwitterアカウントCAMP TEBA(@campteba)さんが樹木医の先生をお招きして開催された勉強会です。
今回の記事では、その勉強会で先生がお話しされていたことをまとめ、今後のみなさんの知識の糧としていただくことが目的です。
今回の記事化を快諾してくださった、Twitterスペース「CAMP TEBA2号店」主催のサチコさん(@sachicoffee1976)、ナビゲーターをされたももたろさん(@momotanoro)、樹木医のカントー先生(@Jumokui_Kanto)には、この場で御礼を申し上げさせていただきたいと思います。
Twitterスペース「CAMP TEBA2号店(@campteba)」とは、キャンプに関するさまざまな話題を取り上げて、加工女子キャンパーのサチコさんとお店では話せない会話をする、キャンパーさんが楽しめる空間作りを目指す場所となっています。
樹木医の先生を招いて、学ぶ1時間
樹木医カントー先生(神藤先生)
日本大学生物資源科学科卒業、樹病学を専攻。大学卒業後24歳の時に大卒最短で樹木医の資格を取得。現在は樹木医として独立、庭の設計、造園業のコンサル、講演会など幅広く活躍。
樹木医とは
勝手に名乗っている資格ではなく、しっかりと資格のあるもの。木のお医者さんとして、木の病気を診たり治療したりする職業。
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キャンプ場で起きた倒木事故について
樹木医から見ると、「この事故自体かなりのレアケースだが、木を見るといつ倒れてもおかしくない状態だった。」という今回の事故。どうしてこのような事故が起こったのか、まずは樹木とは…というところから再確認し、今回の事故について触れていきたいと思います。
樹木とは
目に見えている部分は、葉・幹・枝があり、見えない部分には根っこや地面に広がっています。そして、見えている幹の中に木材があります。
上の写真をご覧ください。これは樹木の断面です。中心が色が濃く、周りに白っぽいものがあり、一番外側が樹皮となっています。
中心の色が濃いところは、樹木の細胞が全部死んでいる場所なんです。次の白っぽい場所もほとんど死んでいて、樹木に水を送ったりする細胞だけが生きている状態です。
樹皮と白い部分の隙間に栄養をやり取りする細胞が詰まっています。根から枝や葉っぱに水分や栄養を送ったり、葉っぱから根に栄養を送ったりということをしています。
よって、樹木というのは、ほとんど死んだ細胞が集まってできているということです。
根の働き
続いて、根っこの部分。根っこはどんな働きをしているかご存知でしょうか?
根っこの役割
- 水を吸う
- 栄養を吸う
- 根を張り巡らせることによって木を支えている
根っこは、実は呼吸をしています。地面の中で水がよく吸えない、あまり呼吸が上手にできないと、写真のように地表に上がってきて根を張り巡らせたりします。実は、幹でも呼吸をしているんですよ。幹に目のようになっている部分を「皮目」と言い、これを通して幹も呼吸をしています。
葉っぱが息をするのは小学校で習いますが、根っこや幹が息をするなんてなかなか知らないことですよね。本当に勉強になります。
____これを踏まえて、樹木医の先生から見た今回の倒木事故についての見解はどうなんでしょうか?
写真は今回の事故現場のものですが、樹木の半分に葉っぱがついていません。この部分は枯れている部分になります。根っこからの水分・栄養分が届かなくなり、枝先から枯れていったような状態に見えます。
そしてよく見てみると、枝がバラバラに飛び散っています。これはよく乾燥しているという証拠です。枯れたばかりではなく、枯れてから時間が経っているということが想像できます。
葉っぱが生えている部分は、ものすごい密度で茂っていますが、ここは必死に光合成を行い頑張って生きている場所になります。葉っぱをいっぱい作ろうとして、生きている部分で一生懸命頑張ろうとした結果、通常よりもたくさんの葉がついているということになります。
枝先に葉っぱがなく、幹のところに集中して葉っぱがついているという状態ですが、これも危険なサインの一つになります。
今回の事故の木の根本を拡大した写真です。幹と根の境目でちょうど折れている感じになっています。ニュースでは「根の部分が腐って(根腐れで)倒れた」という表現をしています。
木が倒れる理由には、大きく分けて2つ、胴枯れと根腐れがあります。今回はニュースにおいては「根腐れ」という表現でした。
胴枯れとは、幹が枯れて倒れてしまう。根腐れとは、根っこが腐って根から倒れてしまうことを言います。
今回の写真を見ると幹から倒れているように見えますので、根腐れからくる胴枯れに近い症状だったのでは?と思います。
ただ、この樹木を見ると根っこが弱っているというのは、半分が枯れた枝から見てもわかるように、おそらく根が腐り、そこから菌が幹の方に広がり、最終的に幹から倒れたということになるのではと思います。
現場を見ていないので、はっきりとは言えませんが、根腐れと、それからくる胴枯れによって幹から倒れたというのが今回の事故の要因だったのではと思います。
___根腐れというのはどうやって起こるのでしょうか?
根が痛んでいくと病気が入りやすくなり、そこから腐っていくことを根腐れと言います。
その原因として、まずひとつめに根の周囲に水が多すぎて、水が逃げていかない状態になること。そうなると、菌が繁殖しやすい状態になり腐っていきます。
2つめは、根が呼吸ができないと腐っていってしまいます。どうして呼吸ができなくなるかというと、人間が土を踏み固めてしまったり、水が多すぎて呼吸ができないという状態です。
今回の事故では、車を木の横につけたり、テントを張ったりと、人間が土を踏み固めてしまう原因がある場所で、木が呼吸をできなくなり、根っこが腐っていってしまったのではないかという推測ができます。
天然記念木などには柵がしてありますが、あれは樹木に対してのいたずら防止だけではなく、人間が根の周りを踏み固めて根腐れを起こしてしまわないようにするためなんです。大切な木を枯らさないようにするために、そういった柵をしているわけなんです。
___キャンプ場では木の根の上に車を止めたりという場所もありますが…
地面の表面スレスレにも根っこがあるので、その上を車が走ってしまうと根を傷つけて菌が入りやすい状態を生み出してしまう可能性もあります。樹木にとってはあまりいい環境ではないですよね。菌が入らないように防護しているのが樹皮。それを傷つけてしまうと、そこからバイ菌が入りやすくなります。
倒木原因の可能性まとめ
- 土が踏み固められる、あるいは水が多すぎるなどで根が呼吸をしにくい状態になり、菌が入り根腐れを起こした
- 根腐れにより、枝や葉の一部分に水分や栄養がいかなくなり、枯れている場所ができていた
- 根腐れを起こしたところから、どんどんと幹の方にも菌が広がっていき胴枯れを引き起こした
私たちキャンパーが気をつけるべきこと「危険な木を見分ける方法」
最重要ポイント①「猿の腰掛があったら危険」
猿の腰掛というキノコですが、木を腐らせてしまうキノコの仲間です。これが木に生えていると「木が枯れて倒れてしまうかもしれない」ので近づかない。
猿の腰掛というキノコは、菌糸というとても細かい糸のようなものを出して木の栄養を吸っています。その時に樹木を分解、ボロボロにしていきます。このキノコの菌が入ったところに、栄養がなくなると、次の木に移ろうとしてキノコの傘を作って胞子を出して飛んでいきます。
ですので、このキノコが出ているということは、そこの部分の栄養を食べ尽くしたというサインだと思ってください。
___しいたけも同じ原理ですか?
しいたけも原木栽培といって、菌糸を木に打ちつける栽培は同じ原理で、そこの部分の栄養を食べ尽くして外にキノコのが出てきているということです。
最重要ポイント②「樹皮が剥がれている」または「木の幹に穴が空いている」
森のなかに行くとよく見るんじゃないかなと思いますが、これも危ないサインです。
樹木の中心は死んだ細胞がたくさん集まって、防御壁のように菌が入り込まないように頑張っているのですが、死んでいる細胞しかないので菌が入ると穴が空き、樹木が空洞になってしまいます。
リスなど小型動物の巣になりますが、人にとっては危険なサインになります。
例えば、木が黒くなっていたり、樹皮が剥がれていたり、それらが木の根本のあたりでそのような状態になっているとかなり危険です。一見、なんともなさそうに見える木でも裏側で、そのような状態になっていることもあります。必ず幹を一周チェックしてみてください。
最重要ポイント③「葉っぱのない枝はないか」
葉っぱがついていない枝というのは、枯れているor枯れかけている枝です。落葉樹は冬場はわかりにくいのですが、他の枝に葉がついているのに、そこだけついていない。ついていても極端に少ないというのは、枯れているサイン。
そこの枝だけ落下してくるということもあるので、注意が必要です。
____落葉樹の場合、どう見分けるのでしょうか?
猿の腰掛というキノコは冬場でもついているので、それが見分けるポイントの一つになってきます。あと、樹皮が剥がれていたり、樹皮が死んでいると、他と比べて変色しているので、よく見ていただけたらと思います。
冬は、雪の重みで折れてしまうこともあるので、十分注意してください。
重要ポイント①「葉っぱが少ないと危ない」
弱っている木、もう終わりかけている木を見つけるポイントとして、他の枝や周りの木と比べて葉っぱが少ないものは、枝が枯れて落ちてくる可能性があります。
この立派な木ですが、一部葉が少ない部分があるのがわかりますでしょうか?これだけ健康そうな樹木でも枝によって弱る・枯れる部分があります。
葉っぱは光合成をするために出てきますが、下の方の枝になると上の枝葉に隠れてしまい、光合成ができなくなってきます。こうなると樹木は「ここの枝いらないな」となり、自分で自分を枯らしてしまうということもあります。
こういった枝にタープやハンモックなどのロープを掛けると、枝ごと落下する可能性があるので注意が必要です。
健康そうに見える木でも、このように一部分が枯れているということもあるので、幹を辿って枝先を見てあげるというのも重要になってきます。
重要ポイント②「雨が降ったあとじゃないのに周囲に水溜まりがあると危ない」
雨が降っていないのに木の周囲に水溜まりがあるということは、水が地中に浸透していっていないということになります。そうなると根が腐りやすくなります。
周囲に水溜まりがあって、葉っぱが少ないなどの兆候があると「根腐れ」のし始めを疑います。根腐れをしていると、栄養を枝や葉に送れなくなるので、葉っぱがつかない、枯れていく原因になります。
人間と一緒で樹木も呼吸をすることでエネルギーを作っています。そのエネルギーがなくなってしまう状態になると、病原菌が入りやすくなります。
重要ポイント③「樹皮にコケが生えていると危ない」
樹皮にコケが生えていると、その場所の湿度などを推し量ることができます。こちらの写真は桜の幹ですが、薄緑のコケが生えていますよね。正確にいうと、地衣類といってコケと藻が一緒に生えている状態です。
このようにびっしりついているという場所は、湿度が高い、水が溜まりやすい場所となります。つまり病気が発生しやすいということですので、注意が必要です。
立ち枯れしている場合でも、こういったコケがついていることがあります。
___素人が、枯れているかどうか、木を叩いて音で判断することってできますか?
木の種類によって、樹皮が分厚いものがあるので中の空洞音を見極めるというのは難しいです。また、無闇に叩くと折れてしまったり、枯れていないのに傷をつけてしまい、病気が進行してしまう危険性もあります。
ですので、無闇に叩いて確認するようなことは避けたほうが無難です。枯れて危険そうな木に近づくということも避けられます。
この写真は桜の木ですが、樹皮にコケが生えていて、木の半分に葉っぱがついていません。これは、今回倒れた木と一番近い状態の木です。右半分に重心が傾いていて、いつ倒れてもおかしくない状態ですね。こういった状態の木には近づかないようにしてください。特に湿地帯が近いような場所は、こういった木を発見しやすいです。
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樹木医視点の危険な木を見分ける2つのポイント
車や人通りをチェック
地面がしめ固められていないか。そうなっている場合は、土をほぐしたりなど土壌改良を行います。
地中をチェック
地面のなかの浅い部分の、岩盤層・粘度層をチェックすることもあります。樹種によって、根っこの作りが全然違うので、地面のなかの地層によって倒れやすいかなどを確認しています。
キャンプ場側が気をつけられること
これまでお話ししたことから判断することもできますが、樹木を診るというのはかなり専門的な知識が必要になってきます。定期的に専門の方を呼ぶ、専門の方ときちんとマニュアル作りをするということが大切になってきます。
危険な木を見つけたらどうするかということを決めておくというのが大事になってきます。
立ち枯れした状態で10年以上続くこともあります。倒れていないから大丈夫なのではなく、危険な兆候のある木は、倒れる前に徹底して対策をしていくということが大切になります。
根っこの近くまで石が敷き詰められていたり、車が木の周囲の土を踏み固めるような状況をなるべく避けるというのも大切です。
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普段の生活で気をつけるポイント
生活に身近な樹木だと、公園や街路樹、学校などで生えている樹木ですが、これまでにお話ししてきた最重要ポイントと同じで、猿の腰掛がないか、葉っぱの少ない枝がないかなどが重要になります。
特に生活圏内では台風のときなどは、そういった樹木に絶対に近づかないようにしていただきたいです。
___街路樹の桜がたくさん生えている場所ってどうなんでしょう?
街路樹の桜はソメイヨシノという種類が多いのですが、ソメイヨシノは桜の中でも病気に弱い種類になっています。大体寿命が80年から100年くらいと言われています。戦後復興時期に道が整備され、公園が整備され、ソメイヨシノがたくさん植えられたという場所が多いんですね。で、今、ちょうどその寿命の時期に当たる木が多いです。ですので、これから危険な樹木が増えてくる時期になってくるかもしれません。
まとめ「これがあったら逃げろ」
- 猿の腰掛のようなキノコが生えていないか→木が栄養を吸われて、中がスカスカの状態になっている
- 樹皮が剥がれていないか、幹にに穴が空いていないか→樹木の中心が枯れて倒れやすくなっている
- 葉のない枝がないか→葉のない枝は死んでいる可能性が高い
まとめ「重要ポイント」
- 周りの樹木と比べて葉が少なくないか→だんだん枯れていく兆候の可能性
- 樹皮に苔が生えていないか→生えていたら湿度が高い可能性。根腐れをしているかも
- 周りに水溜りがあるか→雨のあとなら心配ないがずっと溜まっているようであれば根腐れをしている可能性がある
さいごに
今回、非常に残念な事故を受けて、私たちキャンパーが注意するきっかけが生まれました。自然のなかで楽しむキャンパーにとっては、とても大切なお話を聞ける場を設けてくださったCAMP TEBA(@campteba)のサチコさん(@sachicoffee1976)、ナビゲーターのももたろさん(@momotanoro)、専門家としてわかりやすく解説してくださった樹木医のカントー先生(@Jumokui_Kanto)に心より感謝したいと思います。